中小企業が自然災害への備えを図るうえでカギとなるのが事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定です。中小企業庁編『中小企業白書2019年版』では中小企業におけるBCP策定の現状と課題について調査しています。

同白書に基づき、BCPの策定状況についてみると、BCPを策定している割合は全体の16.9%となっています。また、従業員規模が小さくなるほど策定割合が低くなり、「名称を知らず、策定もしていない」と回答した企業の割合が高くなっています。

BCPを策定している企業のきっかけとなったことについて回答割合の高い順にみると、「販売先からの勧め(23.1%)」、「行政機関からの勧め(17.8%)」、「自身の被災経験(17.8%)」となっており、BCPの策定を進めるには、販売先や行政機関などといった周囲からの働きかけが効果的であることがわかります。次に、BCPを策定した企業が感じている平時のメリットについてみると、「重要業務とは何か見直す機会になった」と回答した企業の割合が59.2%と最も高くなっており、BCPの策定を契機に自社の事業を見直し生産性向上につなげるような策を講じていることが見て取れます。一方で「効果は感じていない」と回答した企業の割合は13.6%にとどまっており、大半の企業がBCP策定により何らかの平時のメリットを感じていることがわかります。一方で、BCPを策定していない企業の理由について回答割合の高い順にみると、「人手不足(29.1%)」、「複雑で、取り組むハードルが高い(27.2%)」、「策定の重要性や効果が不明(21.1%)」となっています。

このように、人手不足や取り組むハードルの高さを理由として、中小企業においてBCPの策定は現状では難しい取り組みと考えられているのです。

では、中小企業のBCP策定において具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。以下で、中小企業庁編『中小企業白書2019年版』においてBCP策定を社内の人材育成としても活用し、組織力向上につなげている企業の事例として取り上げられた天草池田電機株式会社(所在地:熊本県上天草市、従業員数212人)の取り組みについてみていきましょう。

同社は、産業用機械等の部品生産を主な業務として2002年に設立した企業です。同社が立地する熊本県では、2014年11月に、県と損害保険会社、商工会議所連合会などの商工4団体が「熊本県事業継続計画策定支援に関する協定」を締結し、BCP策定支援セミナーの開催や事業者の個別支援などを実施していました。そのような中、熊本県からBCP策定について声が掛かり、東日本大震災以降、事業継続への危機意識を高めていた同社は、BCP策定に取り組むこととしました。

同社ではBCP策定を人材育成にもつなげるため、若手、中堅、管理職のバランスを考慮して選抜した約30名からなるチームを編成しました。県の協定に基づいて損害保険会社から招聘されたコンサルタントの指導を受けつつ、約8か月を経て2016年にBCPが完成しました。ボトムアップでBCPを策定したことから、BCPへの理解は従業員に素早く浸透しました。その結果BCP策定直後に発生した2016年の熊本地震では、各従業員が確認作業などを的確に行うことができ早期の業務再開につながりました。また、防災に限らず、幅広い業務で従業員から自発的な改善提案が行われるようになるなどの効果が出るとともに、社会や地域からの評価も高まっています。
このようにBCPの策定によって組織力向上などの効果も期待できるのです。

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)